No16 事実をもとにした物語!昭和50年代の少女たち 第二部 八章

マラカス忘れてない? 小説

町の衰退

パッチワークのスカート

南国にも寒さの厳しい季節がやってきた。マリアは新しいスカートが欲しかったが、鳩のスーパーが潰れた今では、布が手に入らなかった。そこでパッチワークで十六枚はぎのスカートを作ることにした。
茶色いイメージのスカートにしようと思った。

マリアはメインとなる茶色の細切りのはぎれを四枚、白地に赤い花のはぎれを四枚、それと黒地に茶色い花模様のはぎれを八枚用意した。

合計一六枚の細布を縦に縫い合わせていって、ウエストにゴムを通した。
裾を切り揃えて、ミシンで叩きつけた。
びっくりするぐらいおしゃれなパッチワークのスカートができた。
16枚はぎのスカート
それはまるで、ちょうど大流行していた有名原宿ブランドのスカートのようだった。マリアはこのつぎはぎのスカートをとても気に入った。
薄い綿のブロードだったので、デパートで買った大人のペチコートを重ねて履いた。

重ね着により十分に冬物のスカートとして活躍できるスカートになった。

侵入者ふたたび

ある日、学校から帰って
「寒い寒い」と言いながらコタツに潜り込んだ。
すると、足先に柔らかいものが当たった。人間のようだった。
でも、ヒーローかなぁ?
いや、ヒーローは後ろにいる。目が合うとうれしそうに飛びついてきた。

そうすると今コタツの中にいる柔らかいものは、侵入者だ。

「ぎゃー!」と言う声にならない声を上げてコタツから飛び出た。
立ち上がって身構えた。

ヒーローがコタツの匂いを嗅ぐと吠え始めた。

まずいぞ、本当に侵入者だ。マリアは血の気が引いた。

コタツの向こう側の掛け布団がもそりと動き、中の侵入者が出てきた。
侵入者の猫
猫だった。
そう、夏に煮干しで契約した猫の一匹だ。勝手にコタツの中で温まっていたのだ。

猫は気だるそうに、のそのそと庭に帰っていった。

みかん箱アパート

次の日、お父さんが、いらないみかん箱をいくつかもらってきて、縦に重ねて釘で固定した。そのみかん箱の中に、古い毛布をそれぞれ入れた。
野良猫たちは、このあたたかいみかん箱アパートで、快適に冬を過ごすことになった。

マリアは猫たちのみかん箱アパートがうらやましかった。
「わたしも欲しい」と
そのみかん箱をひとつもらうことにした。

みかん箱は長方形の箱に蓋のついた木の箱だ。しっかりとした作りでそのまま使うことができる。みかん箱をよく洗い、怪我をしないように全体にやすりを掛けた。

そしてアーリーアメリカン調の部屋に置いた。
それは、ベンチにもなり、サイドテーブルにもなり、春子ちゃんが来たときには、ギンガムチェックの布をかけて、おしゃれなティーテーブルにもなった。普段使わないときには、はぎれや本や自分の宝物をしまうことができた。
みかん箱は宝箱
最高の宝箱で最高の家具だった。

学校の布屋さん

昭和五十年代の学校では、お裁縫の必須科目があった。女の子たちはパジャマ、タイトスカート、ギャザースカート、絞り染め、自由課題をそれぞれ提出しなくてはならなかった。ガチャマン景気で成長した織元が、この小さな田舎町にもあり、女の子たちの多くはそこに就職したものだった。

鳩のスーパーがなくなった今、みんなは布が買えなくて困り果てていた。そこで先生が布の業者さんに直接来てもらえるように段取りをつけた。

来週、大きな布屋さんが家庭科室で二日間、布の販売をすると言う。先生は、来年作る分のお洋服の生地をちゃんと買うように生徒たちに案内した。
「特別に二割引きにしてくださるそうです」生徒たちは目を輝かせた。

三年生になるわたし達の次の課題は、冬物の厚手の生地の縫製だった。
そのことをあの人に話すと、見栄っ張りのあの人は、財布の中の現金を全部つかんでマリアに渡した。一万三千円だった。
「欲しい布は全部買いなさい」とあの人は言った。
「足りなかったら母が払いに来ると言いなさい」

楽しいお買い物

何せ、この日は、マリアはお金持ちだった。充分すぎるお金を握り締めて、家庭科室の布の展示を見に行った。
大教室の机を全部使って、布が並べられていた。こんなに豊富な布を見たのは初めてだった。

あれもこれも欲しい。
パジャマにする肌触りの良い楊柳の木綿。おしゃれな赤い縫い糸。カラフルなしつけ糸。
マリアはどんどん決めていった。
無地の厚手の木綿。なんとなく魅力的なストライプ。フランス風のブロード。
幾何学模様のインド綿。コーデュロイの花柄。
そして、当時の原宿ブランドを思わせる、深い赤の花柄の布を六メートル購入した。

春子ちゃんに着せたいお洋服の布も、好きなだけ買えることがうれしかった。

うしろからマリアの肩に顎を乗せてきたミカが
「あたしの結婚祝いも作ってよー」とおねだりしてくる。
おねだりのミカ
「あら、電子レンジじゃなくてこんなものでいいの?」とからかうと
「電子レンジがいい」とまた繰り返し始めた。まだまだ電子レンジのある家庭は少なく、高級品だった。

他にもシーツやカバーにするための安い布をそれぞれ三種類買った。一気に物持ちになった気分だった。

機嫌良く家路に着いた。
重い布の塊を自転車に乗せて運びつつも、浮足立っていた。
マリアは上機嫌で玄関を開けた。

あの人はさっそく、その布に文句をつけた。
「あんたそんなバカみたいな布を買ったの?
そんなのちんちくりんじゃないの」あの人は特に、原宿ブランド風の赤い布をけなした。

その日のマリアは機嫌が良かったので、ちょっと甘くあしらってやることにした。

その頃のマリアは、身長149センチになり、あの人を追い越していた。
マリアは自分より小さいあの人をひょいと抱え上げると、背負い投げをしてソファーに投げ飛ばした。
あの人は目をまん丸にして驚いていた。
背負い投げ
もう力では、あの人はマリアにかなわないのだ。そのことを知ったあの人は、それ以来、マリアにガミガミ言う事はなくなったし、手を挙げることもなくなった。負けを認めたのだ。

マリアの進路にも、勉強にも口を出さなくなった。

「もうあの子は手に負えない。私は匙を投げたんだよ。
ああ、恐ろしい子だよ。ああ、恐ろしい子だよ」あの人はそうこぼしていた。

春の海遊び

マリアと春子ちゃん、そしてヒーローは暖かくなった海へ遊びに行った。
サーファーが海で波乗りをしている。南国の三月の海は暖かい。

マリアは貝殻や岩牡蠣を拾うことに夢中になったが、春子ちゃんは、相変わらず採集にはあまり興味を示さなかった。
海遊び
「あーあ、ウニかサザエだったら欲しいのになぁ」食いしん坊の春子ちゃんがつまらなそうに言った。
「それじゃあ、密猟だよ」とマリアは笑った。

ヒーローは初めて訪れた海に、はしゃいで飛び込んでしまった。ヒーローは砂まみれになって、夢中で遊び、長い毛はびしょ濡れになり、宇宙人のような別な生き物の姿になった。モフモフの中身は半分しかなかった。

海水だらけになったヒーローに、生ぬるい水道水をぶっかけると、冷たいじゃないかと怒るのだった。
勝手に海に飛び込んだくせになんてわがままなんだろう。

次からは、ヒーローのために家から暖かいお湯をペットボトルに二本持って来ることになった。

岩牡蠣拾いはわたしに任せっきりで、春子ちゃんは食べる係はしっかりこなした。ヒーローも春子ちゃんも甲乙つけがたい現金なやつである。

春子ちゃんの決断

春子ちゃんの新しい町

春子ちゃんの転校が決まった。田舎町での縁談を断ったので、もっと大きな町に行くことになった。進学希望の高校の近くの親戚の家だ。

春子ちゃんは、本当はこの楽しい小屋が一番好きで、気に入ってると言った。大きな町に行っても、
「絶対にこの小屋に戻ってくる」と約束した。

春子ちゃんはこれから住まう町について話をしてくれた。

その町は車で二十分の少し遠い所で、以前見に行った隣町よりも大きく、農業と商業のバランスの良い町なんだそうだ。
「人口は六万人なの。この辺では大きな町ね」買い物がしやすく、外食をするお店もあり、ちょうど暮らしやすい街なんだそうだ。
「うどん屋さん、喫茶店、お団子屋さん、ケーキ屋さん」食いしん坊の春子ちゃんは食べ物のお店を並べ立てた。他にも本屋さん、大型スーパーやホームセンター、一通りのお店がある。
「食事の心配がないところが良いわね」春子ちゃんの目が輝いた。

でも、それでも魅力的なのは、あの自由な離れ小屋だと春子ちゃんは言った。

引越し

春休みの晴れた土曜日に、春子ちゃんのお父さんが秋田からやってきて、軽トラックに春子ちゃんの荷物を乗せて引っ越しをした。春子ちゃんのお母さんは縁談を断ったことでショックのあまり寝込んでしまったそうだ。
荷台には大切なエレクトーンも積まれていた。

「春子ちゃん、マラカスも忘れてない?」マリアがふざけると春子ちゃんはあっかんべーと、ベロを出した。
マラカス忘れてない?
春子ちゃんは、お父さんの隣の助手席に座ると、手を振り振り去っていった。
「春子ちゃん、また来年に会おうね。受験が終わったら」
今年は受験があるため、ふたりとも忙しくなりそうだった。

来年にはまた海に行こう。花火を見よう。未来の楽しみを想像していると電話が鳴った。春子ちゃんだ。
車に乗って、バイバイと手を振ってから、まだ二時間も経っていない。

電話先の春子ちゃんが言った。

「自転車忘れた。明後日使うから乗ってきて」マリアは春子ちゃんのおばあちゃんの母屋に走った。

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