2-2 事実をもとにした物語!昭和50年代の少女たち 第二部 第二章

さようなら天羽先生 小説

ネズミのお金

大掃除

次の日、マリアは春子ちゃんの小屋の片づけを頼まれていた。

かつて納戸だった離れには、まだすみっこのほうに、家族の私物が積み上げられていた。
春子ちゃんとマリアは、それを母屋の押し入れに移す作業をした。
「そこのベッドの横の本をお願い」
マリアが言われた場所の作業をしていると、くしゃくしゃに丸まった千円札が転がり出てきた。
それを拾って、春子ちゃんに渡そうとすると、春子ちゃんはベッドの上に飛び乗った。そして大きすぎる悲鳴をあげた。

「きゃあああ嫌だ~。それ絶対ネズミが齧ってる~。わたし触りたくないからマリアにあげる~」
「齧ってないよ、きれいなお金だよ」と言っても
春子ちゃんは嫌だと言って譲らなかったので、マリアはそのお金を預かることにした。

春子ちゃんのおばあちゃんは、
「納戸にお金なんてしまわないよ。春子が秋田から持ってきたものだろう」
と言ったので、お金は春子のものという結論になった。

春子ちゃんのスカート

マリアはそのお金を預かって鳩のスーパーに行き、渋いからし色のインド綿を安く購入した。九百円。

春子ちゃんは南国に来てからは一枚も洋服を買っていなかった。雪国で着るような分厚いセーターは持っていても、軽やかな南国のお洋服は一枚もなかったのだ。

だからそのインド綿で夏中使える春子ちゃんのスカートを作ることにした。
巻きスカートならサイズがわからなくても、成長しても、くるくると体に巻きつけて自由自在に使うことができる。

残りの百円ではぎれの木綿のレースを買った。

マリアは早速お休みの日に春子ちゃんのスカートを縫った。四角い布を四つに折りたたんで、ウェスト部分を円形にくり抜くのだ。裾も丸く整える。ウェスト紐を作り、スカートのウェストと縫い合わせ、裾の処理をすると、あっという間に出来上がった。

日曜日の午後、そのスカートを持って春子ちゃんの小屋に行った。
マリアが得意そうにそのスカートを渡すと春子ちゃんは言った。

「あんたバカなの?それを買ったの?
自分の下着は買わなかったの?」

マリアはニヤニヤと笑ってじゃーんと言って、もう一つの戦利品を見せた。
実はさらしの布を使って、自分のシュミーズも作っていたのだ。
さらしのシュミーズ
さらしを三段ティアードにして、胸の部分、ウェストの部分そしてスカートの部分。これでちょうどいいシュミーズのサイズになった。肩紐には百円で買った可愛らしいレースを使った。
レースが余ったので、シュミーズの裾にも使うことができた。

「すごく可愛い!天才じゃん!」
春子ちゃんは、自分のことのように喜んだ。下着の写真は撮れなかったけど、巻きスカートは、写真に撮って記念にした。
その渋い色味のインド綿は春子ちゃんが大好きな色だった。

春子ちゃんの夕ご飯

春子ちゃんのおばあちゃんは農業を営んでいた。食卓には、豊富な野菜が並んで、どれもおいしそうだった。
蒟蒻と野菜の白和えと苦いゴーヤは欠かさず食卓に並んだ。葉物野菜の味噌汁、お新香、人参のきんぴら。愛情のこもった凝ったおかずだった。
育ち盛りの春子ちゃんは、これでは大きくなれない。

「お肉が食べたい」とおばあちゃんに言った。

すると、春子ちゃんのおばあちゃんは、毎日毎日、鳩のスーパーで鶏の唐揚げを買ってくるようになった。子どもの食べるものというのは さっぱり想像がつかないので、お店の人に教えてもらった安くておいしい鶏の唐揚げを、毎日買って来るのだった。

春子ちゃんは、鶏の唐揚げにうんざりしてる、とため息をついた。

さようなら天羽先生

行かないで天羽先生

一学期が終わった。臨時の先生だった天羽先生は都会に帰ることになった。天羽先生は人情深くていい先生だった。優しかったし、みんなの憧れでもあった。
「いかないで先生」
「ずっと担任でいて先生」
みんなは先生との別れを惜しんだが、
「二学期からは新しい先生が来てくれますからね」と天羽先生はみんなをなだめた。
生徒たちは用務員さんに相談して、剪定予定の最後の紫陽花を全部、摘み取って花束にした。
先生は桜の季節に天女様のようにやってきて、紫陽花とともに虹のように消えていった。
さようなら天羽先生

校長先生のお話

夏休みの前に、校長先生が話をした。校長先生は品のあるお爺ちゃんだった。
「夏休みは悪さをしないで、先生のうちに遊びに来なさい。アイスクリームをご馳走しよう」と校長先生は言った。
夏休みになると、退屈をした生徒たちは二、三人ずつ校長先生のお宅にお邪魔して、アイスクリームをご馳走になった。
優しい校長先生

夏の手作り

不器用な春子ちゃん

春子ちゃんの小屋は、夏はとても暑くて居られたものではなかったから、マリアの家やマリアのおばあちゃんの家に来ることが多くなった。

入り浸って、珍しい食べ物を楽しみにしている様子だった。

春子ちゃんは面白いことが大好きだった。とにかく何でも面白くなければ嫌なのだ。

マリアの家にあったミシンを使ってみたいと言い出した。マリアは快く承諾し、春子ちゃんの手作りを手伝うことにした。

春子ちゃんは不器用で何か白いお洋服を作っていたけれど、マリアには、それが何なのか、さっぱり見分けがつかなかった。いくつか縫い合わさっても、それがどんなお洋服なのか、さっぱり先が見えなかった。

いびつな洋服を作りながら、春子ちゃんはミシンの針をバッツンバッツンと二回折った。
不器用な春子ちゃん
これはダメだ。やはり春子ちゃんの服はマリアが作ってあげることにした。

マリアの得意はアッパッパだったので、とりあえず今年の夏はそれで我慢してもらうことにした。
それは赤のマドラスのチェックの可愛らしいアッパッパだった。
あまりにも可愛らしすぎたので、それはパジャマになってしまい、外で着てもらえなかった。

その後に作ったモスグリーンの後ろボタンのアッパッパを春子ちゃんはまる二年着ていた。
後ろボタンのアッパッパ

夏祭りの晴れ着

田舎では夏に雨乞いの祭りや、大漁の祭り、豊作の祭りと毎週祭りがあった。生徒たちが浮かれるので、先生たちは親御さんたちにあらかじめ、
「夏祭りの前に華美な服装を買い与えないこと」
小売店には、
「祭りが終わるまでは基本的なものを中心に販売するように」通達した。
この方法で生徒を縛り付けることなく、毎年問題なく夏を過ごすことが出来ていた。今までは。

ところが今年は服の作れる少女と、お祭り騒ぎが好きな少女がいる。問題は起こるべくして起こった。

祭りのはしご

マリアと春子ちゃんは、夏祭りを全部はしごすることにした。

さっそく夏祭り用のセットアップを作ることにした。それは流行のインド綿のセットアップだった。そのインド綿はもともとソファーカバーだったものだが、買ってすぐに赤ちゃんが破いてしまった。そのカバーをもらって作ることにした。
スクエアネックの赤いインド綿のトップスに、ギャザースカートだった。
インド綿のセットアップ
「それ作ったの?」

見た人は褒めるよりも驚いた。お母さんも口をあんぐり開けて驚いていた。

大漁祭り

美人で目立ちすぎる春子ちゃんは、相変わらずモスグリーンのワンピースで、マリアは赤いセットアップで夏祭りに繰り出した。地味な装いでも、美人の春子ちゃんはとても目立っていた。町の衆は春子ちゃんを見るために、かき氷の屋台の列の後ろに並んだ。

春子ちゃんに話しかけようとする大人は、マリアとヒーローが睨みつけた。

一つ目の大漁のお祭りでは、地引網を見学した後、控えめにかき氷をひとつだけ買った。まだまだこれからの夏と祭りの計画は長いからだ。
大漁祭り

雨乞い祭り

春子ちゃんと祭りの計画をしているうちに、マリアの身長は百三十八センチになった。おばあちゃんと同じになったのだ。

おばあちゃんと並ぶと、ぴったり双子のように同じ背丈だった。

「大きくなったねぇ」

おばあちゃんがそう言うと、大広間のタンスから白い浴衣を取り出した。

「これがちょうどよくなったんだねえ」と言いながら、浴衣をマリアに手渡してくれた。それは白地に朝顔の絞りの浴衣だった。
マリアは、明日の祭りに浴衣を着て行くことにした。
おばあちゃんと一緒
すると、春子ちゃんも浴衣を着て行くと言い、巾着を持っていないと言う。

浴衣の端切れで、浴衣とお揃いの巾着をささっと作ってあげた。おしゃれな裏布を使い、リバーシブルに作った。春子ちゃんはとても喜んでくれた。

そして雨乞いの夏祭りに繰り出した。マリアは白地に絞り模様の上等の浴衣。春子ちゃんは若草色に百合の花の現代浴衣だった。
「おいおい、あれはまだ子供だよな?」マリアは十三歳で田舎では一応の大人だったが、春子ちゃんはまだ十二歳だった。子供が肩上げのない浴衣で田舎の祭りを闊歩したのだ。
雨乞い祭り
そんな町の衆の騒ぎはつゆ知らず、春子ちゃんは持ってきた千円を全部食べ物に使ってしまった。
マリアはやっぱりかき氷だけを食べた。

問題児

次の登校日に全校集会が開かれた。
「祭りに華美な装いで行った者がおります。今後は祭りでも制服を着るように」と校長先生が取り決めた。

全校集会の後にリカが絡んできた。
「あんたたちさあ~、やらかしてくれたじゃん」春子ちゃんはどこかに逃げて居なくなってしまった。

「リカが言えば何とかなるよ」とマリアは言った。
「なんで呼び捨て?なんでわたし?」とリカが言うので
「リカのお家は有力だから、リカが言うのがいいと思う。校長室に行こう」とマリアは言った。

「は、だからなんでわたしが」ぶつぶつ言うリカの横でマリアは大声を出した。
「みんな!校長先生がジュースおごってくれるって、全員行こう!」
扇動
「え?なになに?ジュース?」群衆は校長室に向かった。

マリアはさらに叫んだ。
「ちゃんとありがとうって言ってね」わーいやったあ、と言いながら群衆は校長室の前に来た。

リカを小突きながらノックをして校長室に入った。

「校長先生!ありがとう」
「校長先生!ありがとう」群衆が言った。

マリアはリカを小突いた。
「ほら!」

「えーと、制服はあんまりかと・・・・・」リカが言った。
「制服が汚れます!」かぶせるようにマリアが言った。

「校長先生!ありがとう」
「校長先生!ありがとう」後ろはガヤガヤしている。

「えーと、祭りの制服・・・・・」リカが言った。
「Tシャツに!」かぶせるようにマリアが言った。

「校長先生!オレンジがいい」
「校長先生!りんごがいい」

「なるほど、オレンジのTシャツか。学生らしい」校長先生は納得した。
「よし、じゃあ、夏祭りはTシャツと制服のスカートにしよう」

「校長先生!ありがとう」
「校長先生!ありがとう」群衆は騒いでいる。

「じゃあわたしジュース買ってきます」とマリアが言うと、
「いやいやわしが出そう」と校長先生は生徒たちにオレンジジュースとリンゴジュースを振舞った。

「自分たちで話し合ってえらいなあ」と校長先生は生徒たちを褒めた。

「何のことですか?校長先生、ジュースありがとうございます」
「校長先生、ジュースありがとうございます」群衆は楽しんでいた。

「さては謀ったな・・・・・」校長先生はリカを見た。リカは首を横にぶんぶん振った。
「あいつか・・・・・」校長先生は心の中で楽しんでいた。

タイトルとURLをコピーしました